「で、何の用?」
しあわせなひと時
「アンタは・・・私を五代目・火影だと一回でも思ったことはあるのかい」
「あったような。なかったような」
火影専属上忍として扱われているためその毎日が任務で埋め尽くされてしまっている。
何もせずゆったりと暮らしたいとまるで年寄りのような夢を抱いているにとって、どんどんと任務を与えてくる綱手はまさに悪の権化であった。
どうにもこうにもそんな態度をとるのを仕方ないとは思うが綱手の性格上それを笑顔で迎えることも出来ずこうなるのである。
「まぁ、いい。今日呼び出したのは、特別任務でね」
「特別・・・あ、何か急にお腹が痛くなってきた。すいませーん、ちょっと早退させてもらいます」
「コラ待ちな!ガキかお前は!」
踵を返すの肩をガァシィと掴むと綱手は慌てて言葉を付け足した。
「お前には中忍試験の試験管をやってもらう」
「・・・中忍試験の試験管・・・」
とても懐かしい響きだった。
「そうだ、悪い話ではないだろ?それに奴をお前の補佐に付ける」
ニヤリと怪しく笑う綱手にわずかに退く。
「や、奴って・・・」
コンコン―――
「入りな」
ちょうどタイミングよく鳴り響くのは戸を叩く音。
それにさらに綱手が目を細めたことには眉根を寄せながらも入り口に目をやった。
「失礼します」
入ってきた人物にの目は奪われその表情は驚きに満ちていた。
そんなの反応が余程楽しかったのかまるで勝ち誇ったような笑顔を浮かべる綱手だった。
「シッカマル〜シッカマル〜!シカマル〜!シカマルゥウ〜!!」
「おいおい、一体何回言う気だよ;ンな何回も言わなくたって自分の名前くらい分かるっての」
中忍から与えられる規定のベストに忍服、そして額あては相変わらず左腕に巻いてあり黒髪をひとつに縛り上げている髪型。
任務が立て続けに入っていたためココ数ヶ月顔も碌に合わせていなかったにとって懐かしくて仕方なかった。
綱手から大方の内容を聞いて部屋を後にしてからはずっとこうだった。
シカマルの名を何度も呼び変な歌に乗せて歌ってみたり、急に黙ったと思えばジッと見てきたり。
そんなことされればいくら何でも恥ずかしくもなってくるだろう。
「オマエなぁ・・・」
「ん?なに?」
先を歩いていたシカマルがいい加減の行為を止めさせようと振り返れば、が笑顔で小首を傾げた。
「・・・何でもねぇ・・・」
「えー何よ?何か気になるわね」
「何でもねぇよ!」
急にズンズンと歩き出すシカマルにが慌てて追いかけるがシカマルは追いつかれないようにさらにスピードを上げた。
顔が赤くなっているのをにバレないように。
「あ、そうだ。聞きたかったんだけど」
「あぁ?何だよ」
が追いかけてくるのを止めてくれたことに安堵の息を漏らすシカマル。
そんなシカマルの思いを知るわけもなくは眉根を寄せて考え込んでいた。
「そういえば、中忍試験ってさ・・・いつだっけ?」
「おいおい頼むぜ;中忍試験は明後日だぜ」
「・・・・・・え、えぇえええ!!??」
「んで、結局本当にその試験内容で行くわけ?」
綱手に言われた通り、第二試験を受け持ったはいいが試験で何をやるかを考えていなかった。
毎年毎年同じようなことをやっていては試験の質が落ちるということで前と同じようものが出来ないため、は徹夜して考えることになったのだ。
もちろん補佐するように言われたシカマルも道連れだ。
「もちろん。もう他に浮かばないんだから仕方ないんだし、何よりそれが手っ取り早い。んで、早く終わらせてアタシは寝る!頑張るわよ、シカマル」
「お、おう;(試験管がそれでいいのかよ)」
妙な威圧感をまとったに圧されながら答えるシカマルの表情が引きつっていたのは言うまでもないだろう。
「っていうか、五代目が言うの遅すぎるのよ。絶対にいびり入ってるわよ。ホント姑にしたくないタイプよね」
がぶつくさ言っている間にの居る広間へとぞくぞくと受験生がやってきた。
「お、珍しい組み合わせじゃねーか」
「!?シカマルまで、一体何やってんのよ」
声をかけられたことでやっと気づいたのかたくさんの受験生の中に見知った顔をいくつか見つけた。
キバ、いのを始めサクラにリー、チョウジにシノ、それにテンテンにヒナタといった修行に出ているナルトを除くメンバー。
「あれ?っていうか、何でキバたちが居るのよ」
「何でって;中忍試験を受けにくる以外ほかに何があるんですか」
のとぼけぶりに相変わらずだと思ったのはサクラだけではないだろう。
「お前なぁ、今朝に受験生のリスト見せただろーが」
「え?そうだっけ?もう眠たくてそれどころじゃなかったし。まぁ、それはともかく・・・」
静かに伏せた目がゆっくりと開かれるとそこに居たのはさっきまでのとは違った雰囲気をまとっていた。
「受験生の皆さん第一試験通過おめでとう。改めて挨拶させてもらうけど、アタシの名は花斗。これより中忍試験第二試験を担当させてもらう」
普段の雰囲気はまるで感じられないほど近寄りがたく冷たささえ感じさせる目をするに、シカマルたちの額に汗が浮かび上がる。
それを感じるのはシカマルたちだけではないだろう。
シンッと静まり返った広間は張り詰めた空気へと変わっていた。
「試験内容は簡単。忍術・体術・幻術を駆使してアタシにかかってきなさい。15分間立っていられたら第二試験通過とする」
「・・・いくら何でも一人でこんなに相手するのはキツくはないか?」
「順番は後になった方が有利だよね」
シノとチョウジの言葉に気づいたシカマルが広間全体に聞こえるようにして声を張り上げる。
「言っておくが順番を決めるつもりはない」
「それにサポートとしてシカマルには援護にまわってもらうから心配はご無用よ」
「スタートの合図と同時に皆一斉に試験を始める」
受験生の中でどよめきが起こったがは別段気にすることもなくシカマルへと視線を送った。
それにシカマルが軽く頷くと手を高く挙げる。
「第二試験・・・始めッ!!」
「さすがに徹夜明けの運動もキッツイもんね・・・」
バタッと倒れこむは仰向けになって息を吐いた。
第一試験通過者の半分にも満たない数が第二試験通過者となった。
シカマルはもちろんの実力を知るものであればコレは予想がついていたこと。
もちろん通過者の中にはサクラたちの姿があった。
贔屓目ではなくにとって彼らの実力は中忍として高いレベルにあることが分かる。
現に手を抜いてはいたといえの攻撃に15分間耐え抜いたのだ。
下忍の頃から知っている彼らの成長ぶりには本当に嬉しかった。
「なぁーに笑ってんだよ、危ねぇ奴に見えるぜ」
呆れたように見下ろしてくるシカマルにはさらに笑みを零す。
「親心ってやつよ」
「はぁあ?何だそりゃ」
意味が分からないとばかりに眉根を寄せるシカマルには手を伸ばした。
「ったく、自分で起きろよな」
そう言いながらもの手をしっかりと取ってくれるシカマルにクスっと笑みを浮かべるとは反対にぐいっと引っ張った。
「なっ!?うおっ;」
このまま倒れればの上に激突してしまうという寸前の所で体勢を立て直したシカマル。
仰向けになっているの頭の横に慌てて手を付き覆いかぶさる形で収まった。
「オ、オマエなぁ・・・危ねぇだろーがよ!」
「ご苦労様」
シカマルが怒っているのも気にせずというか聞いていないのかニコリと微笑む。
「初の試験管で疲れたでしょ?ありがとう手伝ってくれて」
「・・・オ、オレは・・・何もしてねぇよ。オマエの方がよっぽど疲れてんだろうーが」
「お互い徹夜してるしね。それにしても、今回は五代目に感謝。シカマルと一緒に仕事出来て楽しかった」
またも微笑むにシカマルは顔が赤くなっているのが分かり慌てて顔を背けて起き上がろうとした。
「何言ってやがんだよ・・・試験はまだ終わってねぇんだし戻るぜ」
起き上がろうとしたシカマルの腕をぐいっと掴むのは他の誰でもないだ。
「まぁまぁ、そんなに慌てても良いことなんてないわよ」
「・・・オマエまさかとは思うが・・・」
「第三試験が終わるまでにはまだあることだし、ココはのんびり良い夢でも見ましょう」
の呑気な笑顔に反論する気も失せシカマルは観念したようにの隣にゴロンと倒れこんだ。
「怒られても知らねぇーからな」
「その時は頼むわよ、試験管補佐」
「はぁー・・・せめて夢くらいは良いのを見ときてぇな」
この後に起こるであろう五代目の説教が頭を過ぎるが、今は・・・今だけはこの幸せな時を感じていたいとシカマルは、
隣ですでに安らかに寝息を立てるの柔らかい髪にソッと優しく口付けを落とすのであった。
―END―
輝月流星さま、2周年記念企画ご応募いただきありがとうございました。
試験管になった時の話ということだったので、こんな感じになりました。
試験管は試験管でもシカマルは補佐になっていますが、まぁこれも試験管だよなと。
連載の閑話みたいな感じで書けたので楽しんで書いてました。
気に入っていただけたでしょうか?(ドキドキ)
この作品は、輝月流星さまに捧げます。
今回は企画参加ありがとうございました。これからもNEW PANICをよろしくお願いします。
---------------- シシシシカマルサイコウデース!と思わず片言になってしまうほどの素晴らしさ。 私の大好きなシカマルほのぼのをリクしたところ…もうあとはご覧の通りです! 歩さんの連載ヒロインが素敵です。シカマルとの関係も素敵です。 またご覧になられていない方は是非当方LINKからどうぞ! 歩さん、輝月の我侭聞いてくださって本当に有難う御座いました。 *輝月 |